サッカレーのバリーリンドンと時間
時間の経過
スタンリー・キューブリック監督の映画「バリー・リンドン」は、18世紀後半を舞台に、野心的なアイルランドの青年レドモンド・バリーの波乱に満ちた半生を描いています。映画は、バリーの社会的上昇と没落を、時間経過という観点から緻密に描き出しています。
映画は章立て構造を採用しており、各章にはナレーションが添えられています。このナレーションは、客観的な視点からバリーの行動や周囲の状況を淡々と説明することで、時間の流れを明確に示すと同時に、観客と主人公との間に距離を作り出しています。
また、キューブリックは、登場人物の動きやカメラワークを最小限に抑え、長回しや固定カメラを多用しています。この手法は、18世紀の絵画のような静謐な映像美を生み出す一方で、時間の流れを遅く感じさせ、観客に登場人物の心情や状況をじっくりと観察させる効果をもたらしています。
さらに、映画では、時間の経過とともにバリーの容姿や服装、そして周囲の環境が変化していく様子が克明に描かれています。これらの変化は、バリーの社会的地位や精神状態を反映しており、時間の経過が彼の人生に与えた影響を視覚的に示しています。
時間の捉え方
「バリー・リンドン」は、時間に対する人間の認識についても考察を深める作品です。映画は、バリーの栄光と転落を対比的に描くことで、人生の無常さ、そして時間の不可逆性を浮き彫りにしています。
バリーは、野心と幸運に導かれ、爵位を得て裕福な生活を手に入れます。しかし、彼の幸福は長くは続きません。愛する息子を失い、妻との関係は冷え込み、ついには財産を失ってしまいます。バリーの没落は、人間の成功がいかに儚く、時間によって容易に崩れ去るものかを痛感させます。
また、映画のラストシーンでは、老境に達したバリーが、かつての栄光を懐かしむ様子が描かれています。バリーは、失われた時間を取り戻そうとしますが、それは叶わぬ願いです。このシーンは、過去は決して変えられないという事実を突きつけると同時に、時間という概念が人間にとっていかに残酷なものであるかを暗示しています。