ゴールディングの蝿の王が扱う社会問題

『蠅の王』の主要なテーマの1つは、文明と野蛮のせめぎ合いです。文明社会から隔絶された島に漂着したイギリス人の少年たちは、当初は秩序と理性を重んじ、民主的なルールに基づいて生活しようとします。しかし、時間の経過とともに、彼らの理性は脆くも崩れ去り、原始的な本能と暴力に支配されていきます。

少年たちのリーダーであるラルフは、火を起こし、救助を待つなど、文明社会の象徴として描かれています。一方、対照的な存在であるジャックは、狩猟に熱中し、残忍な行為を繰り返すことで、野蛮の化身となっていきます。

この対比を通じて、ゴールディングは、人間の本質には文明的な側面と野蛮な側面が潜在しており、状況によっては後者が表面化することを示唆しています。文明社会のルールや秩序は、人間の野蛮性を抑制する役割を果たしていますが、それは決して絶対的なものではなく、容易に崩壊する可能性を秘めているのです。

恐怖は、『蠅の王』において重要な役割を果たす要素です。少年たちは、未知の島に漂着した当初から、見えない獣の存在におびえています。この恐怖心は、彼らの理性を蝕み、集団心理を歪ませていく原動力となります。

ジャックは、少年たちの恐怖心を巧みに利用し、自らの権力を拡大していきます。彼は、獣を退治すると称して、暴力的な集団を作り上げ、恐怖に支配された少年たちを従えていきます。

ゴールディングは、恐怖がいかに容易に人々を支配し、暴力や残虐行為を正当化する道具となるかを描いています。恐怖は、理性的な思考を麻痺させ、集団心理を増幅させることで、人間を野蛮な行為へと駆り立てる力を持っているのです。

権力への欲望もまた、『蠅の王』の重要なテーマです。当初は民主的なリーダーとして選出されたラルフでしたが、ジャックの権力欲によって次第にその立場を脅かされていきます。

ジャックは、狩猟の成功や暴力的な言動を通じて、少年たちの支持を集めていきます。彼は、権力を得るために手段を選ばず、暴力や恐怖を利用することも厭いません。

ゴールディングは、権力への欲望が、いかに人間の理性や道徳心を腐敗させるかを描いています。権力を追い求めるあまり、人間は残虐行為に手を染め、他者を犠牲にすることさえあるのです。