## ケルゼンの自然法論と法実証主義を読む前に
ケルゼン理解の重要性
ハンス・ケルゼンは20世紀の最も影響力のある法哲学者の一人であり、彼の主著『純粋法学』は法実証主義の金字塔とされています。ケルゼンは、法を道徳や自然法から切り離して捉えようとする「純粋法学」を提唱しました。これは、法の妥当性を判断する際には、その内容の善悪ではなく、それが適切な手続きを経て制定されたかどうかを重視する立場です。
前提知識の確認
ケルゼンの思想は難解で知られており、彼の著作を読み解くには、一定の前提知識を身につけておくことが重要です。特に、以下の3点はしっかりと理解しておく必要があります。
1. **自然法論と法実証主義の基本的な対立**: 自然法論は、法の根拠を人間の理性や自然秩序に求め、普遍的で不変の法が存在すると考えます。一方、法実証主義は、法の根拠を人間の制定行為に求め、時代や社会によって法の内容は変化すると考えます。ケルゼンは法実証主義の立場をとりますが、従来の法実証主義とは異なる独自の理論を展開しています。
2. **カント哲学の影響**: ケルゼンの思想は、イマヌエル・カントの哲学から大きな影響を受けています。特に、カントの超越論的観念論、物自体と現象の区別、道徳哲学などは、ケルゼンの法理論を理解する上で欠かせない要素です。
3. **法秩序の階層性**: ケルゼンは、法を「規範の体系」と捉え、上位の規範が下位の規範の妥当性の根拠を与えるという階層構造を想定しています。この法秩序のピラミッドの頂点に位置するのが「Grundnorm(基本規範)」であり、これは実定法を超越した仮説的な規範として機能します。
関連する学説の理解
ケルゼンの著作を読む際には、彼の思想的背景や関連する他の学説についても理解を深めておくことが重要です。
* **自然法論**: トマス・アクィナス、グロティウス、ロックなどの自然法論者たちの主張を理解することで、ケルゼンが批判の対象とした自然法論のイメージを具体的に把握することができます。
* **法実証主義**: ジョン・オースティン、ジェレミー・ベンサムなどの古典的な法実証主義者たちの理論とケルゼンの理論の共通点と相違点を比較検討することで、ケルゼン独自の見解がより明確になります。
* **法解釈論**: 法解釈における主観と客観の問題、法の適用における裁量の問題など、ケルゼンが取り組んだ課題は、現代の法解釈論とも深く関わっています。
批判的な視点を持つ
ケルゼンの純粋法学は、法を道徳や政治から切り離し、客観的で科学的な理論として構築しようとしました。しかし、その試みは、法の現実を無視した抽象的な理論であるという批判も浴びてきました。ケルゼンの著作を読む際には、彼の主張を鵜呑みにするのではなく、批判的な視点を持つことが大切です。