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ケルゼンの自然法論と法実証主義の世界

## ケルゼンの自然法論と法実証主義の世界

自然法論と法実証主義の対立

ハンス・ケルゼンは、20世紀の最も影響力のある法哲学者の一人であり、その著作は法実証主義の発展に大きく貢献しました。彼は、法と道徳を明確に区別する「純粋法学」を提唱し、自然法論の立場をとる学者たちと激しく対立しました。

自然法論は、法の妥当性を、道徳や理性といった法の外にある規範に求めようとします。一方で、法実証主義は、法の妥当性を、それが制定または承認された事実のみに基づいて判断しようとします。ケルゼンは、自然法論が犯しやすい陥穽として、以下の二点を挙げます。

* **事実と規範の混同:** 自然法論は、自然や理性から「~である」という事実判断によって、「~すべきである」という規範判断を導き出そうとしますが、これは論理的に不可能です。
* **恣意性の問題:** 自然法論が依拠する「自然」や「理性」の内容は、時代や文化によって大きく異なる可能性があり、客観的な基準を欠いています。

ケルゼンの純粋法学

ケルゼンは、これらの問題を克服するために、法を道徳や政治といった他の社会規範から切り離して、「純粋に」法的観点から分析することを提唱しました。彼の純粋法学は、以下の三つの要素を特徴とします。

* **規範主義:** 法は、事実ではなく、規範によって構成されています。つまり、法は「~である」ではなく、「~すべきである」という形で表現されます。
* **階層秩序:** 法体系は、上位の規範が下位の規範の妥当性の根拠を与えるという、ピラミッド型の階層構造を形成しています。
* **基本規範:** この階層構造の頂点には、「憲法制定権力に従わなければならない」といった、それ自体が他の規範によって根拠づけられることのない「基本規範」が存在します。

ケルゼンに対する批判

ケルゼンの純粋法学は、法実証主義の代表的な理論として高く評価されていますが、同時に様々な批判も浴びてきました。その中でも特に重要なのが、以下の二点です。

* **現実の法体系との乖離:** ケルゼンの理論は、抽象的で形式的な論理に偏っており、現実の複雑な法体系を十分に説明できないという批判があります。
* **道徳との断絶:** ケルゼンの法実証主義は、ナチス政権のような不正義な法律であっても、それが形式的な手続きを経て制定されたものであれば、有効な法として受け入れざるを得ないという問題を抱えています。

これらの批判は、ケルゼンの理論が抱える限界を示すものではありますが、同時に、彼の純粋法学が、法と道徳、法と政治の関係について深く考えさせる、重要な視点を提供していることも事実です。

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