## ケネーの経済表の光と影
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経済活動の相互依存性を視覚的に表現
フランソワ・ケネーが1758年に発表した「経済表」は、社会全体の経済活動を捉え、貨幣経済の発展に伴い複雑化する経済の構造を、循環という概念を用いて表しました。これは、当時の重商主義が重視した貿易黒字による貨幣の蓄積ではなく、生産物の流れに着目した画期的なものでした。
ケネーは経済表の中で、社会を「生産階級」「地主階級」「不生産階級」の3つの階級に分け、それぞれの階級の経済活動と相互関係を明らかにしました。そして、農業のみが真の価値を生み出すと考え、土地からのみの生産物を「純生産物」と定義しました。経済表は、この純生産物がどのように他の階級に分配され、循環していくのかを示すことで、経済の全体像を把握することを可能にしました。
この視覚的な表現は、複雑な経済活動を理解しやすくするだけでなく、経済学を体系的な学問として確立する上で大きく貢献しました。経済表は、後の経済学者たちに大きな影響を与え、アダム・スミスやカール・マルクスなどの経済学説にも影響を与えたと言われています。
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現実経済の単純化による限界
ケネーの経済表は、当時の経済学に大きな進歩をもたらしましたが、一方で、現実経済を単純化しすぎたという批判もあります。
例えば、経済表では農業のみが純生産物を生み出すとされていますが、実際には工業や商業も経済成長に貢献しています。また、経済表は階級間の取引のみを扱っており、同一階級内での取引や貯蓄、投資といった要素は考慮されていません。
さらに、経済表は静的なモデルであるため、技術革新や人口増加といった経済の動態的な側面を捉えることができません。現実の経済は常に変化しており、経済表のような静的なモデルでは、その変化を十分に説明することは難しいと言えます。