ケインズの雇用・利子・貨幣の一般理論と人間
ケインズ経済学と人間の行動
ケインズの『雇用・利子・貨幣の一般理論』は、経済学に革命をもたらしただけでなく、人間の行動と心理に関する鋭い洞察を提供しています。ケインズは、従来の新古典派経済学が前提としていた「合理的な経済人」像を批判し、人間の行動は合理的な計算だけでなく、心理的な要因、特に不確実性に対する反応に大きく影響されると主張しました。
不確実性と動物的本能
ケインズは、未来は本質的に不確実であり、完全な情報に基づいて合理的な計算を行うことは不可能だと考えました。このような状況下では、人間は必ずしも論理的な判断を下せるとは限らず、「動物的本能」と呼ぶ、感情や直感に頼ることが多くなります。 投資判断において、この「動物的本能」は重要な役割を果たすとケインズは指摘します。将来の収益見通しは不確実性に満ちており、投資家は合理的な計算に基づいて行動するのではなく、楽観や悲観といった感情に左右されやすいのです。
流動性選好と貨幣への愛
ケインズは、人々が将来の不確実性に対して備えるためにお金を保有したいという欲求、「流動性選好」を重視しました。この流動性選好は、貨幣が持つ交換手段としての機能だけでなく、価値の保蔵手段としての機能にも由来します。人々は、不確実な将来においても貨幣は価値を失わないと考えるため、安全資産として貨幣を保有しようとします。
賃金の下方硬直性と失業
ケインズは、労働市場における賃金の下方硬直性も重要な要素として挙げました。経済が不況に陥ると、企業は賃金を引き下げて雇用を維持しようとしますが、労働者は生活水準の低下を避けるため、賃金カットに抵抗を示します。この結果、賃金はなかなか低下せず、失業が長期化する可能性があります。
有効需要の原理と政府の役割
ケインズは、経済全体の生産量と雇用量は、需要によって決定されると主張しました。需要が不足すると、企業は生産を縮小し、雇用を削減するため、経済は不況に陥ります。
従来の新古典派経済学では、市場メカニズムによって需要不足は自動的に解消されると考えられていました。しかしケインズは、賃金の下方硬直性や流動性選好などの要因により、市場メカニズムが効果的に機能しない可能性を指摘しました。
このような場合、政府が財政政策や金融政策を通じて需要を創出し、経済を不況から脱却させることが必要だとケインズは主張しました。