## グラムシの獄中ノートと人間
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獄中ノート
における人間の捉え方
アントニオ・グラムシは、イタリアのマルクス主義思想家であり、政治家です。彼は、ムッソリーニ率いるファシスト政権によって投獄され、獄中で膨大な量のノートを書き残しました。この「獄中ノート」と呼ばれるノート群は、後世に大きな影響を与え、現代社会を読み解く上でも重要な示唆を与えています。
グラムシは、人間を「歴史的・社会的関係性の中で形成される存在」と捉えました。彼は、人間は生まれながらにして特定の本質や性質を持っているのではなく、社会的な関係性や歴史的な文脈の中で、その思考様式や行動様式を形成していくと考えていました。
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ヘゲモニー
と人間
グラムシは、「ヘゲモニー」という概念を用いて、支配階級がどのようにして被支配階級の同意を得ながら支配を維持しているのかを説明しました。ヘゲモニーとは、単なる武力や強制力による支配ではなく、思想や文化、道徳などを通じて、被支配階級に自発的な服従を促す支配の形態を指します。
グラムシは、人間はヘゲモニーの影響を受けながら、その意識や行動を規定されると考えました。支配階級は、教育や宗教、マスメディアなどを利用して、自らの価値観やイデオロギーを社会に浸透させ、被支配階級の同意を作り出そうとします。
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知識人
の役割と人間
グラムシは、ヘゲモニーに対抗し、社会変革を促す上で「知識人」が重要な役割を果たすと考えました。彼は、知識人を「伝統的な知識人」と「有機的知識人」の二つに分類しました。
伝統的な知識人とは、学者やジャーナリスト、芸術家など、既存の社会秩序の中で特権的な地位を占める知識人を指します。一方、有機的知識人とは、労働者階級の中から生まれ、彼らの立場を代弁し、社会変革を先導する知識人を指します。
グラムシは、有機的知識人が労働者階級の側に立ち、彼らの意識を高め、組織化することで、ヘゲモニーを打破し、より公正な社会を実現できると考えました。
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市民社会
と人間
グラムシは、ヘゲモニーが形成される場として「市民社会」を重視しました。市民社会とは、国家と個人の間に位置する領域であり、家族や学校、宗教団体、労働組合、政治団体など、様々な社会集団によって構成されています。
グラムシは、市民社会は支配階級がヘゲモニーを行使する場であると同時に、被支配階級が抵抗運動を組織する場でもあると考えました。彼は、市民社会における思想闘争を通じて、ヘゲモニーを打破し、社会変革を達成することができると考えました。
“獄中ノート”は、全体主義政権下で書かれた断片的なノートであり、解釈が難しい部分も多いですが、グラムシの人間に対する洞察は、現代社会における権力構造や社会変革を考える上で重要な視点を提供しています。