クリエイティブな人のためのアリストテレス「ニコマコス倫理学」
「善き生」と創造活動の目的
アリストテレスの「ニコマコス倫理学」は、単なる道徳哲学の古典ではなく、人間にとっての「善き生」とは何かを追求した書物です。現代社会において、「クリエイティブ」であること、新しいものを生み出すことは高く評価されますが、その活動の目的や、それが個人や社会にもたらす意味については、常に議論の的となっています。アリストテレスは、「善き生」を「エウダイモニア」という言葉で表現し、それは単なる快楽や富の獲得ではなく、人間の理性的な能力を最大限に発揮し、徳に基づいた活動を行うことで達成されるとしました。
徳の涵養と創造性の発揮
アリストテレスは、徳を「知性」「勇気」「節制」「正義」「寛容」など、人間の様々な能力における卓越性と捉えました。これらの徳は、生まれながらに備わっているものではなく、実践と習慣を通じて後天的に獲得されるものです。創造的な活動においても、優れた作品を生み出すためには、技術的な熟練だけでなく、忍耐、探究心、批判的思考といった徳が不可欠です。「ニコマコス倫理学」を読むことで、クリエイティブな人々は、自身の活動における徳の重要性を認識し、それを涵養するための具体的な方法を学ぶことができます。
「中庸」の概念と創造的葛藤の克服
アリストテレスは、「徳」とは、感情や行動における「過剰」と「不足」の中間にある「中庸」の状態であると説きました。例えば、「勇気」は、無謀と臆病の中間、「寛容」は浪費と吝嗇の中間です。創造的な活動においても、完璧主義に陥ったり、逆に妥協しすぎたりすることなく、「中庸」を見出すことが重要です。「ニコマコス倫理学」の「中庸」の概念は、クリエイティブな人々が、創作活動における葛藤やジレンマを乗り越え、バランスのとれた作品を生み出すための指針となるでしょう。
「友情」の重要性と創造的共同体
アリストテレスは、「友情」を「善き生」に不可欠な要素として重視しました。彼は、利害関係に基づく「有用な友情」や、快楽を共有する「快楽的な友情」だけでなく、互いに人格を高め合い、徳の実践を支援し合う「徳に基づく友情」を真の友情と位置づけました。創造的な活動は、孤独な作業になりがちですが、同時に、他のクリエイターとの交流や共同作業を通じて、新たな発想や刺激を得ることも多いでしょう。「ニコマコス倫理学」における「友情」の考察は、クリエイティブな人々に、健全な人間関係の構築と、創造的な共同体の形成の重要性を認識させるでしょう。
「幸福」とは何か? 創造活動における自己実現
アリストテレスは、「幸福」とは、人間の究極的な目的であり、徳に基づいた活動を通して実現されるとしました。創造的な活動は、単なる経済活動や娯楽ではなく、自己表現、自己実現の手段となりえます。「ニコマコス倫理学」を読むことで、クリエイティブな人々は、自身の活動が「幸福」とどのように結びついているのか、創造活動を通してどのような自己実現が可能なのか、深く考えるきっかけを得ることができるでしょう。
「ニコマコス倫理学」は、現代社会を生きるクリエイティブな人々にとっても、多くの示唆を与える古典です。それは、単なる倫理の教科書ではなく、人間の本質、幸福、そして善き生についての深い洞察を提供するものです。創造活動の意味や目的を見失いそうになった時、あるいは、人間関係や自己実現において悩んだ時、「ニコマコス倫理学」は、新たな視点と指針を与えてくれるでしょう。
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読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。