## クラウゼヴィッツの戦争論の発想
### 1.
経験に基づいた理論
クラウゼヴィッツはナポレオン戦争を含む当時の戦争を身をもって経験し、その現実を克明に観察していました。彼の戦争論は、抽象的な理想論ではなく、自身の経験と歴史研究に基づいた現実的な分析から導き出されています。彼は戦争を、理性だけで制御できるものではなく、情熱、偶然、摩擦といった非合理的な要素が大きく影響する複雑な現象と捉えていました。
### 2.
戦争の三位一体
クラウゼヴィッツは戦争を、「政治の延長」、「暴力の本質」、「不確実性の領域」という三つの要素から成るものと定義しました。
* **政治の延長:** クラウゼヴィッツは、戦争は政治目的を達成するための手段の一つであると主張しました。戦争は独立した現象ではなく、政治的意思決定と密接に結びついており、政治目的を達成するための手段として位置づけられるとしました。
* **暴力の本質:** 戦争の本質は暴力であり、敵の抵抗を可能な限り完全に破壊することが目的となります。しかし、クラウゼヴィッツは、現実の戦争においては、完全に敵を撃滅することは困難であり、政治目的とのバランスが重要であることを認識していました。
* **不確実性の領域:** 戦争は、情報不足、偶然性、人間の感情などが複雑に絡み合い、予測不可能な要素が非常に強い領域です。彼は、この不確実性こそが戦争を複雑なものとし、理論化を困難にしている要因であると認識していました。
### 3.
攻勢と防御の弁証法
クラウゼヴィッツは、戦争においては常に攻守がせめぎ合っており、一方が優位に立てば、もう一方は劣勢に立たされると考えました。そして、どちらが優位になるかは、状況や条件によって変化するとしました。彼は、攻勢は勝利への意志を示し、主導権を握るために必要不可欠である一方で、防御はより堅固な態勢を築き、敵の攻撃を弱体化させる効果があると分析しました。
### 4.
摩擦の概念
クラウゼヴィッツは、戦争には常に「摩擦」が存在すると指摘しました。摩擦とは、計画の遅延、情報の誤り、兵站の困難、兵士の士気低下など、戦争の遂行を阻害するあらゆる要因を指します。彼は、この摩擦こそが、戦争を予測不可能なものとし、理論通りにいかない原因であるとしました。
### 5.
軍事的天才の重要性
クラウゼヴィッツは、戦争の不確実性に対処するためには、軍事的天才を持つ指揮官が必要不可欠であると主張しました。軍事的天才とは、複雑な状況を理解し、迅速かつ的確な判断を下し、兵士を鼓舞して勝利に導く能力を指します。彼は、軍事的天才は、経験と学習によってある程度は涵養できるものの、最終的には生まれ持った才能によるところが大きいと考えていました。