ギゾーのヨーロッパ文明史のテクスト
ヨーロッパ文明の二大原理
フランソワ・ピエール・ギゾーの『ヨーロッパ文明史』は、1828年から1832年にかけてソルボンヌ大学で行われた講義録をまとめた書物です。この書は19世紀のヨーロッパ思想に大きな影響を与え、歴史の進歩という概念を広く普及させました。
ギゾーは本書において、ヨーロッパ文明を特徴づける二つの原理として、「自由」と「キリスト教」を挙げます。ギゾーによれば、ヨーロッパ文明は古代ギリシャ・ローマに由来する自由の精神と、キリスト教の精神が融合することによって成立しました。
ギゾーは古代ギリシャを「自由」の概念を生み出した文明であると評価します。ギリシャの都市国家では、市民は政治に参加し、自らの意志に基づいて行動する自由を享受していました。一方、ローマ帝国はギリシャの文化を受け継ぎながらも、広大な領土を支配するための強力な中央集権体制を築き上げました。しかし、ローマ帝国は内外の混乱によって衰退し、ゲルマン民族の侵入によって滅亡の道をたどります。
ギゾーは、ローマ帝国の滅亡後、ヨーロッパ世界に新たな秩序をもたらしたのがキリスト教であったと述べます。キリスト教は、ローマ帝国の没落によって生じた精神的な空白を埋める役割を果たし、ヨーロッパの人々に共通の価値観と道徳規範を提供しました。
ヨーロッパ文明の発展
ギゾーは、ヨーロッパ文明が「自由」と「キリスト教」という二つの原理に基づいて、歴史の中で発展してきたと主張します。彼は、ヨーロッパの歴史をいくつかの時代に区分し、それぞれの時代における文明の進歩を具体的に論じています。
例えば、中世はキリスト教がヨーロッパ社会に深く浸透し、教会が政治、文化、教育などあらゆる面で大きな影響力を持つようになった時代です。ギゾーは、中世の封建制度や騎士道精神、ゴシック建築などを、キリスト教の影響によって生まれたヨーロッパ文明の産物として捉えています。
また、ルネサンスは、古代ギリシャ・ローマの文化が復興し、人間の理性や感性が解放された時代です。ギゾーは、ルネサンスの芸術や文学、科学技術などを、ヨーロッパ文明が再び「自由」の精神を取り戻した結果として評価しています。
さらに、宗教改革は、カトリック教会の権威に挑戦し、個人の信仰の自由を主張した宗教運動です。ギゾーは、宗教改革によってヨーロッパ社会は大きく変革され、近代国家の形成や資本主義の発展が促進されたと述べています。
ギゾーは、ヨーロッパ文明が「自由」と「キリスト教」という二つの原理の間で葛藤や調和を繰り返しながら、歴史の中で発展してきたことを強調しています.