キルケゴールの死にいたる病
絶望
キルケゴールは、著作『死にいたる病』の中で、「絶望」を単なる感情ではなく、人間存在の深淵を照らし出す、一種の”霊的な状態”として描いています。彼は、この状態を「自己であることに絶望する」そして「自己でないことに絶望する」という二つの側面から分析します。
自己であることに絶望する
人間は、自分の有限性、欠陥、そして罪深さに直面したとき、「自己であることに絶望する」状態に陥ります。これは、自己の現状に耐えられず、そこから逃れようとする試みです。しかし、自己から逃れることは不可能であり、この絶望は、自己を否定し続ける限り、深みにはまっていく悪循環に陥ります。
自己でないことに絶望する
一方、「自己でないことに絶望する」状態は、自己の可能性を追求しようとしながらも、常に「~でありたい」という理想と現実のギャップに苦しむ状態です。人は、様々な可能性を追求することで、自己実現を図ろうとしますが、有限な存在である以上、そのすべてを実現することはできません。この不可能性に直面した時、人は自己の可能性に絶望し、自己喪失に陥ります。
絶望からの回復
キルケゴールは、絶望からの回復の鍵は、「信仰の飛躍」にあると説きます。自己の有限性を認め、自己の可能性への執着を捨て去ることによってのみ、人は真の自己、すなわち「神との関係における自己」を見出すことができるとされます。