キケロの義務についての発想
義務の源泉:自然法思想
キケロは、義務の根底には永遠不変の「自然法」が存在すると考えました。自然法は、人間の理性によって認識できる、万人に共通する道徳法則です。彼は、人間は生まれながらにして理性を持つ存在であり、この理性に従うことで、真の幸福に到達できると説きました。自然法は、単なる抽象的な概念ではなく、具体的な行動規範、すなわち「義務」として現れます。
義務の分類:4つの徳
キケロは、ストア派の思想を継承し、義務を4つの主要な徳に分類しました。
* **知恵**: 事物の本質を見抜き、正しい判断を下すこと。
* **正義**: 他者に対して公正かつ公平に接すること。
* **勇気**: 困難に立ち向かい、正しいことを貫くこと。
* **節制**: 欲望を制御し、中庸を保つこと。
これらの徳は、互いに関連し合い、全体として調和のとれた人格を形成する上で重要であるとされました。キケロは、これらの徳を実践することが、自然法に従うことであり、ひいては人間の義務であるとしました。
義務の葛藤:適切な選択
現実の社会では、複数の義務が対立し、葛藤が生じることがあります。キケロは、このような状況においては、「より大きな善」を基準に、適切な選択を行う必要があるとしました。例えば、嘘をつくことが、友人を救うことに繋がる場合、一見すると「正義」と「知恵」の義務が対立しているように見えます。しかし、より大きな善、すなわち「人間の生命」を守るという観点から判断すれば、「知恵」に基づいて嘘をつくことが、真の義務となる場合もあるのです。
義務と社会:理想の市民像
キケロは、人間は社会的な動物であり、共同体の中でこそ、その本性を発揮できると考えていました。彼は、義務を果たすことは、単に個人的な幸福を実現するだけでなく、国家や社会全体の利益に貢献することにも繋がると説きました。そして、理性と徳に基づいて行動し、積極的に公共の福祉に貢献する「理想の市民」像を提示しました。