ガルブレイスの新しい産業国家から学ぶ時代性
近代資本主義の変容:計画経済と企業の隆盛
ガルブレイスは、『新しい産業国家』の中で、近代資本主義が大きく変容を遂げたと指摘します。かつてのように、市場を通じて価格が決定され、資源配分が調整される時代は過ぎ去り、新たに「計画経済」の時代が到来したと彼は主張します。この計画経済において中心的な役割を担うのが、巨大企業の存在です。
巨大企業は、その規模と技術力をもって、市場をコントロールし、生産から消費に至るまで計画的に経済活動を統制するようになりました。彼らは、消費者が必要とするものを予測し、大規模な広告宣伝活動を通じて需要を創出し、市場を支配していきます。このような巨大企業による計画経済は、従来の市場メカニズムとは大きく異なる様相を呈しています。
テクノストラクチャー:専門知識集団の台頭と意思決定の分散化
ガルブレイスは、巨大企業における意思決定の構造にも注目し、「テクノストラクチャー」という概念を提唱しました。テクノストラクチャーとは、企業の意思決定に必要な専門知識や情報を持ち寄り、集団で意思決定を行う専門家集団のことです。現代の企業活動は、高度に専門化、細分化されており、一人の経営者がすべてを把握し、判断することは不可能です。
そのため、企業は、技術者、研究者、マーケティング専門家、財務専門家など、様々な分野の専門家からなるテクノストラクチャーを組織し、集団で意思決定を行うようになります。このテクノストラクチャーの台頭は、従来の資本家による支配から、専門知識に基づく集団的意思決定への移行を示唆しており、企業における権力の構造が大きく変化したことを意味します。
消費社会の到来:依存効果と消費者主権の変容
ガルブレイスは、生産と消費の関係にも着目し、「依存効果」という概念を提唱しました。依存効果とは、企業が広告やマーケティングを通じて、消費者の欲求を操作し、新たな需要を生み出す現象を指します。従来の経済学では、消費者の欲求は独立変数として扱われていましたが、ガルブレイスは、消費者の欲求は企業によって操作され、作り出されるものであると主張しました。
この依存効果によって、消費者は、企業が作り出した「偽りのニーズ」を満たすために、必要以上の消費活動に駆り立てられます。その結果、現代社会は、大量生産、大量消費、大量廃棄を特徴とする「消費社会」へと変貌を遂げました。この消費社会においては、消費者主権は形骸化し、企業が消費者の行動を大きく左右するようになっています。