## ガダマーの真理と方法の光と影
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光:新たな真理への道を開く「解釈学的転回」
ガダマーの主著『真理と方法』は、従来の科学主義的な真理観に真っ向から異議を唱え、「解釈学的転回」を提唱した画期的な書として、人文科学のみならず、哲学、歴史学、文学、法学、神学など幅広い分野に多大な影響を与えました。
ガダマーは、人間の理解は、客観的で中立的な観察によって得られるのではなく、常に歴史的・文化的背景や先入見に影響を受けると主張しました。彼は、この先入見を否定的に捉えるのではなく、理解を可能にするための前提条件として積極的に評価しました。
ガダマーは、芸術作品との出会いを例に、理解を「地平の融合」として説明しました。鑑賞者の先入見と作品のもつ歴史的・文化的背景が融合することで、新たな意味や価値が創造され、理解が深まるとしました。
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影:相対主義と保守主義への懸念
ガダマーの思想は、画期的なものであった一方で、いくつかの批判も招きました。特に、先入見の積極的な評価は、客観的な真理の否定、つまり相対主義に陥る危険性を孕んでいるという指摘がありました。
また、伝統や権威を重視するガダマーの立場は、現状維持を正当化する保守主義と結びつく可能性も指摘されました。実際、ガダマー自身、ナチス政権下における自身の行動に関して、批判的な検証が十分にされていなかったという指摘もあります。
これらの批判は、ガダマーの思想が持つ多義性と複雑さ故に、解釈の仕方によって異なる立場が生まれる余地があることを示唆しています。ガダマーの思想は、その光と影の部分を踏まえた上で、批判的に継承していく必要があると言えるでしょう。