カーライルのフランス革命史の思想的背景
1. ドイツ観念論の影響
カーライルは、エジンバラ大学在学中にドイツ文学、特にドイツ観念論に深く傾倒しました。特に、ヨハン・ゴットフリート・ヘルダーやヨハン・ゴットリープ・フィヒテの思想から大きな影響を受けました。
ヘルダーの歴史観は、歴史を単なる出来事の羅列ではなく、それぞれの民族が持つ独自の精神が展開していく過程として捉えるものでした。カーライルはヘルダーの影響を受け、フランス革命もまた、フランス民族の精神が形作った歴史の一断面として捉えました。
フィヒテは、個人の自由と自己実現を重視し、歴史を、自由を求める人間の精神が物質世界を克服していく過程として捉えました。カーライルはフィヒテの影響を受け、フランス革命を、旧体制の抑圧から解放されようとする民衆のエネルギーが爆発した出来事として描きました。
2. ロマン主義の影響
カーライルは、当時のイギリスで流行していたロマン主義の影響も強く受けていました。ロマン主義は、理性よりも感情や想像力を重視し、英雄や偉人の業績を称えるとともに、伝統や歴史への関心を高めました。
カーライルは、ロマン主義の影響を受け、フランス革命を英雄や群衆のドラマとして描き、歴史における個人の情熱や行動力の重要性を強調しました。彼は、理性や啓蒙主義だけで歴史を説明することはできないと考え、人間の非理性的な側面や情熱にも目を向けました。
3. キリスト教の影響
カーライルは、幼少期から厳格なカルヴァン主義の家庭で育ちました。彼は後にキリスト教の教義を捨てますが、聖書やキリスト教的世界観は、彼の歴史観や道徳観に深い影響を与え続けました。
カーライルは、フランス革命を一種の「審判の日」として捉え、旧体制の腐敗や堕落を神の怒りとして描きました。また、彼は、歴史には神の意志が働いていると考え、フランス革命を、神の摂理によって導かれた歴史の必然的な流れとして捉えました。
4. 社会不安と産業革命の影響
カーライルは、フランス革命史を執筆した当時、イギリス社会が産業革命による急激な変革と社会不安に直面していた時代に生きていました。彼は、フランス革命を、産業革命によってもたらされた社会問題の解決策を見出すための歴史的教訓として捉えていました。
カーライルは、フランス革命の混乱と暴力を見て、産業革命がもたらす社会問題を解決するためには、単なる政治改革ではなく、道徳的な再生と社会の秩序が必要であると考えました。