カーネマンのファスト&スローの関連著作
認知バイアスとヒューリスティクス:判断と意思決定における歴史的背景
ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」は、人間の思考プロセスを体系的に分析し、現代行動経済学の基礎を築いた画期的な著作です。しかし、この分野への貢献はカーネマン一人の功績ではなく、多くの先人たちの研究成果の上に成り立っています。以下に、「ファスト&スロー」と関連する歴史的名著をいくつか紹介します。
1. “Judgment Under Uncertainty: Heuristics and Biases” (1982) by Daniel Kahneman, Paul Slovic, and Amos Tversky
カーネマン自身の初期の研究をまとめたこの論文集は、「ファスト&スロー」で展開される多くの概念の基礎となっています。特に、代表性ヒューリスティクス、利用可能性ヒューリスティクス、アンカリング効果など、人間の直感的な判断に影響を与える認知バイアスが具体例と共に紹介され、その後の心理学、経済学、行動科学などの分野に大きな影響を与えました。
2. “The Theory of Games and Economic Behavior” (1944) by John von Neumann and Oskar Morgenstern
ゲーム理論の古典的名著である本書は、合理的な意思決定者を前提とした伝統的な経済学とは異なり、人間の不確実性下における戦略的行動を数学的に分析しました。カーネマンは、伝統的な経済学モデルが人間の実際の行動を説明するのに不十分であることを指摘し、行動経済学の構築を目指しましたが、その際にもゲーム理論の考え方が大きく影響しています。
3. “Prospect Theory: An Analysis of Decision Under Risk” (1979) by Daniel Kahneman and Amos Tversky
カーネマンとトベルスキーによって提唱されたプロスペクト理論は、人間の意思決定が従来の期待効用理論では説明できない現象を体系的に説明しようとする理論です。特に、人間は利益よりも損失に対して敏感に反応すること、確実性効果など、人間の非合理的な行動を説明する上で重要な概念を提供しました。「ファスト&スロー」においても、プロスペクト理論は重要な部分を占めています。