## カルヴァンのキリスト教綱要に匹敵する本
キリスト教史における記念碑的作品
ジャン・カルヴァンの『キリスト教綱要』(Institutio Christianae Religionis) は、1536 年に初版が刊行されて以来、宗教改革運動、そして広義のプロテスタント主義神学全体に計り知れない影響を与えてきた金字塔です。
この書は単なる神学書ではなく、カトリック教会からの分離を正当化する論拠を提示し、宗教改革の思想的基盤を築いた歴史的文書としての側面も持ち合わせています。
本稿では、『キリスト教綱要』に匹敵する歴史的名著として、同じくキリスト教思想に多大な影響を与えたアウグスティヌスの『神の国』を取り上げ、両書の共通点と相違点を中心に解説します。
アウグスティヌス『神の国』:永遠の都への憧憬
アウレリウス・アウグスティヌス(354-430年)は、キリスト教思想史における最も重要な神学者の一人であり、その影響力は今日に至るまで絶大です。
彼の代表作である『神の国』(De Civitate Dei)は、413年から426年にかけて執筆された全22巻からなる大著であり、ローマ帝国の衰退とキリスト教の関係を考察しつつ、歴史と救済、人間の罪と神の恩寵といった普遍的なテーマを扱っています。
『神の国』が執筆された当時、ローマ帝国はゲルマン民族の大移動による度重なる侵略に苦しんでおり、410年には西ゴート族によってローマが陥落するという衝撃的な事件が起こりました。
この未曾有の事態を前に、伝統的なローマの宗教を信奉する人々はキリスト教の責任を問いただし、キリスト教がローマの伝統的な価値観を破壊し、神々の怒りを招いたと非難しました。
アウグスティヌスはこうした批判に応えるべく、『神の国』を執筆し、キリスト教に対する誤解を解き、真の幸福は永遠に続く「神の国」にのみ存在すると説きました。
両書の共通点:揺るぎない信仰への道標
『キリスト教綱要』と『神の国』は、どちらも激動の時代背景の中で執筆され、キリスト教信仰の真髄を明らかにしようとした点で共通しています。
カルヴァンは宗教改革の嵐吹き荒れる時代に、聖書に基づいた教会と信仰のあり方を提示し、プロテスタントの立場を明確化しました。
一方、アウグスティヌスはローマ帝国の衰退という未曾有の危機に直面し、キリスト教が真の幸福をもたらす唯一の道であることを力強く説きました。
両書は、異なる時代と状況の中で執筆されたにもかかわらず、聖書を唯一の権威とし、神の主権と人間の罪深さ、そして神の恩寵による救済を強調する点で共通しています。
相違点:歴史観と国家観の対比
一方で、『キリスト教綱要』と『神の国』は、その歴史観と国家観において対照的な側面も持ち合わせています。
カルヴァンは、『キリスト教綱要』において、国家を神の秩序の一部として捉え、統治者が神の意志に従って公正に統治することの重要性を説いています。
彼はまた、市民的不服従の権利を認めつつも、基本的には国家権力に服従すべきであるという立場を取っています。
一方、アウグスティヌスは、『神の国』の中で、地上の国家はあくまで暫定的なものであり、真の「神の国」は天上に存在するとしました。
彼はローマ帝国の栄光と衰退を、人間の罪深さと歴史の無常さを示すものとして捉え、真の幸福は「神の国」にのみ存在すると主張しました。
このように、『キリスト教綱要』と『神の国』は、キリスト教思想史における記念碑的作品として、現代社会に至るまで多大な影響を与え続けています.