## カミュのペストの感性
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不条理に対する反抗
カミュの思想の中核をなす「不条理」は、『ペスト』においても重要なテーマとなっています。ペストという不条理な災厄に直面した登場人物たちは、それぞれに苦悩し、葛藤します。しかし、カミュは絶望を描こうとしているのではありません。理不尽な状況下でも、人間は諦めずに、運命に抗い、自身の尊厳をかけてペストと闘うことを選びます。
医師リウーは、ペスト禍の初期から陣頭指揮を執り、献身的に患者の治療にあたります。彼の行動は、英雄的な自己犠牲というよりも、不条理への静かな抵抗として描かれています。リウーは、ペストと闘うことが人間の務めだと考え、その信念に基づいて行動するのです。
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連帯と共感
ペストの流行により、オランの街は外部と隔離され、人々は閉鎖的な空間で共同生活を送ることになります。この極限状態において、カミュは人間同士の連帯と共感の可能性を描きます。
リウーと共にペストと闘うことになるジャーナリストのランベールは、当初は街からの脱出を試みます。しかし、ペスト禍の現実を目の当たりにする中で、彼の中で変化が生まれます。そして最終的には、街に残って人々を助けることを決意します。
また、外部からやってきた聖職者パネルーは、ペストを神の罰と解釈します。しかし、自らもペスト患者の治療にあたり、苦しむ人々の姿に接する中で、彼の信仰心は揺り動かされていきます。
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日常性の重要性
ペスト禍という非日常的な状況下においても、カミュは登場人物たちの日常的な行動や感情を丁寧に描いています。コーヒーを飲み、タバコを吸い、友人と語り合うといった日常の何気ない行為が、ペスト禍によって失われたものの大きさを際立たせます。
カミュは、日常の尊さを再確認することによってのみ、不条理な現実と向き合うことができると考えていたのかもしれません。ペスト禍という極限状態を通して、日常の尊さ、そして人間の生の輝きが浮かび上がってくるのです。