## カミュのペストの原点
### 1.
カミュ自身の体験
カミュは、1941年から1942年にかけて、結核を患い療養生活を送りました。この経験は、ペスト禍における登場人物たちの苦悩や死と隣り合わせの生活を描く上で、大きな影響を与えたと考えられています。
また、カミュはアルジェリアで生まれ育ちましたが、当時フランス領であったアルジェリアでは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ペストを含む疫病が幾度か流行していました。カミュ自身も、こうした歴史的な背景や、疫病に対する人々の恐怖を肌で感じていた可能性があります。
### 2.
哲学的背景
カミュは、実存主義や不条理の哲学に影響を受けていました。特に、キルケゴールやサルトルの思想は、カミュの作品に色濃く反映されています。「ペスト」においても、突如としてペストが蔓延する不条理な状況や、死と直面した人間存在のあり方といったテーマは、こうした哲学的背景と切り離して考えることはできません。
### 3.
文学的影響
カミュは、ドストエフスキーやサルトル、マルクスなど、多岐にわたる作家や思想家の影響を受けています。特に、ペスト禍における人間の心理描写や、集団における倫理の問題などは、ドストエフスキーの作品との共通点が見られます。また、サルトルの「閉ざされた空間」は、ペストによって閉鎖された街の状況と重なる部分があり、「ペスト」の着想に影響を与えた可能性があります。
### 4.
歴史的背景
「ペスト」は、1947年に出版されましたが、これは第二次世界大戦終結のわずか2年後であり、ナチス・ドイツによる占領の記憶がまだ生々しい時代でした。カミュは、ナチズムを「精神のペスト」と呼び、全体主義の危険性を繰り返し訴えていました。「ペスト」は、具体的な疫病の流行を描くと同時に、当時の社会状況を背景に、ファシズムや全体主義といった、人間の心に巣食う「悪」を象徴的に描いた作品としても解釈されています。