カポーティの冷血の話法
### 客観的な視点と主観的な視点の交錯
カポーティは「冷血」において、客観的な視点と主観的な視点を巧みに交錯させています。ノンフィクション小説というジャンルにおいて、客観性を保ちつつも、登場人物たちの内面を描写するために、この手法は効果的に用いられています。
例えば、クルーター家の殺害現場や、ペリーとディックの逃亡劇などは、客観的な視点から詳細に描写されます。一方、ペリーの生い立ちや内面、被害者家族の苦悩などは、主観的な視点を交えながら描写されています。特に、ペリーについては多くのページを割いて、彼の生い立ちや性格、犯行に至るまでの心理状態が克明に描かれています。
この客観性と主観性の交錯は、読者に事件の生々しさを伝えると同時に、登場人物たちの心情に深く寄り添うことを可能にしています。
### 詳細な描写と抑制された感情表現
カポーティは詳細な描写を得意とし、「冷血」においてもその筆致は遺憾なく発揮されています。事件現場の様子や、登場人物たちの外見、行動などが、まるで写真を見るかのように鮮やかに描き出されています。
例えば、クルーター家の家屋や、被害者たちの遺体の様子は、克明に描写されています。また、ペリーとディックの風貌や服装、言動なども、詳細に描写されることで、読者の前にリアルな存在として立ち現れます。
一方で、カポーティ自身の感情は極力抑制されています。事件に対する怒りや悲しみ、登場人物たちへの同情などは、直接的な言葉で表現されることはほとんどありません。あくまでも客観的な視点を保ちながら、淡々と事実を積み重ねていくことで、読者に事件の重さを訴えかけています。
### 多角的な視点の導入
カポーティは「冷血」において、単一の視点ではなく、複数の視点から物語を展開させています。事件の関係者、目撃者、捜査関係者、そして犯人であるペリーとディック。それぞれの人物の視点から事件を描くことで、事件の全体像を浮き彫りにしています。
例えば、クルーター家の隣人や、ペリーとディックが立ち寄った店の店員など、様々な人物の証言が交錯することで、事件当時の状況が浮かび上がってきます。また、捜査を担当したアルヴィン・デューイ捜査官の視点からは、事件の捜査の進展や、犯人逮捕に至るまでの過程が描かれています。
この多角的な視点の導入は、読者に事件を多面的に捉えさせると同時に、事件の真相に迫るサスペンスを生み出す効果も持っています。