オースティンの説得が扱う社会問題
階級と社会的地位
ジェイン・オースティンの小説は、当時のイギリスにおける階級と社会的地位の重要性を浮き彫りにしています。このテーマは、特に「説得」において顕著に描かれています。
小説の冒頭では、エリオット家は、その社会的地位の象徴として、ケリンチ・ホールという広大な邸宅を所有しています。しかし、浪費癖のあるウォルター・エリオット卿のせいで、一家は経済的に困窮し、邸宅を借りに出さざるを得なくなります。
ケリンチ・ホールに引っ越してくるのは、海軍の新興貴族であるクロフト家です。クロフト家の台頭は、当時の社会における変化、つまり、家柄や血筋よりも、個人の業績や財産が重視されるようになりつつあったことを象徴しています。
アン・エリオットは、没落した貴族階級の一員として、社会的地位の低さと経済的な不安定さに直面しています。彼女は、かつての恋人であるウェントワース大佐が、海軍での活躍により財産と社会的地位を築き上げたことを目の当たりにします。
小説全体を通して、登場人物たちは、恋愛、結婚、友情において、社会的地位と経済的な安定を求めるか、それとも愛や個人的な幸福を優先するかというジレンマに直面します。
女性の役割と結婚
「説得」は、当時のイギリスにおける女性の限られた役割と、結婚が女性にとってほぼ唯一の社会的地位と経済的な安定を得る手段であったことを描いています。
アン・エリオットは、賢く思いやりのある女性ですが、社会的地位も財産もありません。そのため、彼女は結婚市場では魅力的な存在とは見なされず、周囲からは「売れ残り」と見なされています。
彼女の妹のメアリーは、裕福な地主であるチャールズ・マスグローブと結婚しましたが、彼女の結婚生活は、夫の無関心さと、家事や育児といった限られた役割に縛られることから、必ずしも幸せなものとは言えません。
一方、アンの友人のハリエット・スミスは、私生児として生まれ、社会的地位も教育もありません。彼女は、身分違いの結婚をしようとしますが、周囲から反対され、結局は、彼女にふさわしいとされる、社会的地位の低い男性と結婚することになります。
「説得」は、女性が直面する社会的な制約と、真の愛と社会的な期待との間で板挟みになる女性の葛藤を鮮やかに描き出しています。