## オースティンのノーサンガー・アビーの対極
エミリー・ブロンテの「嵐が丘」
「嵐が丘」は、しばしば「ノーサンガー・アビー」の対極として挙げられます。 両作品はどちらも19世紀のイギリス文学を代表する恋愛小説ですが、テーマ、設定、文筆スタイル、登場人物描写において対照的な要素が多数見られます。
### テーマ:理性と情熱の対比
「ノーサンガー・アビー」が理性と社会的な束縛を重視するのに対し、「嵐が丘」は抑制されない情熱と自然の力、復讐の破壊的な影響を描いています。
「ノーサンガー・アビー」では、主人公キャサリンは、情熱よりも社会的地位や経済的な安定を優先し、ヘンリー・ティルニーを選びます。 一方、「嵐が丘」のキャサリンは、ヒースクリフへの激しい愛情と、安定した生活を送りたいという願望の間で葛藤します。
このように、両作品は恋愛に対する対照的な視点を提示しており、「ノーサンガー・アビー」は理性的な選択、「嵐が丘」は抗えない情熱の側面を強調しています。
### 設定:穏やかな田園と荒涼とした荒野
「ノーサンガー・アビー」の舞台は、主に広大で穏やかな田園地帯にあるノーサンガー・アビーという名の邸宅です。 一方、「嵐が丘」の舞台となるのは、ヨークシャーの荒涼とした荒野に立つ嵐が丘と呼ばれる屋敷です。
「ノーサンガー・アビー」の田園風景は、登場人物たちの穏やかで洗練された生活を反映しています。 一方、「嵐が丘」の荒涼とした風景は、登場人物たちの荒々しい情熱や、社会から隔絶された生活を象徴しています。
このように、両作品の舞台設定は、それぞれの物語の雰囲気やテーマを強調する上で重要な役割を果たしています。
### 文筆スタイル:風刺と写実主義
「ノーサンガー・アビー」は、オースティン特有の機知に富んだ風刺的な文体で書かれており、当時の社会や人間の愚かさを鋭く描写しています。
一方、「嵐が丘」は、情熱的で詩的な文体で書かれており、登場人物たちの激しい感情や自然の力強さを生々しく描き出しています。 また、複数の語り手を用いることで、複雑な人間関係や心理描写を多角的に表現しています。
このように、両作品は対照的な文筆スタイルを採用することで、それぞれのテーマや雰囲気を効果的に表現しています。
### 登場人物描写:社会適合と反抗
「ノーサンガー・アビー」の登場人物たちは、当時の社会の規範や礼儀作法に比較的忠実な、比較的常識的な人物として描かれています。
一方、「嵐が丘」の登場人物たちは、社会の規範に縛られない、情熱的で激しい性格の持ち主として描かれています。 特に、主人公のヒースクリフは、復讐心に取り憑かれた、複雑で謎めいた人物として描かれています。
このように、両作品は登場人物描写においても対照的なアプローチを採用しており、「ノーサンガー・アビー」は社会との調和、「嵐が丘」は社会への反抗を強調しています。