オーウェンの新社会観の対極
マルサスの「人口論」における社会観
トーマス・ロバート・マルサスが1798年に匿名で発表した『人口論』は、当時の社会改革論、特にウィリアム・ゴドウィンの楽観的な未来予測に対する反論として、人口と資源の観点から社会の現状と将来展望を論じたものです。
対極的な社会観：「協調」vs「競争」
ロバート・オ ーウェンの新社会観は、人間は環境によって形作られるという性善説に基づき、教育と労働環境の改善によって人々の協調性を高め、貧困や社会不安のない理想社会を実現できると説きました。
一方、マルサスの『人口論』は、人間の性欲は抑制できないため人口は幾何級数的に増加する一方で、食糧生産は算術級数的にしか増加しないという「人口法則」を提唱し、人口増加が貧困や飢饉の原因であるとしました。マルサスは、人間社会における競争は避けられない自然の摂理であり、貧困層への救済は人口増加を招き、事態を悪化させると主張しました。
「環境改善」vs「道徳的自制」
オーウェンは、ニュー・ラナークの工場における実践を通して、労働環境の改善や教育の充実が人々の幸福と社会の進歩に繋がることを示そうとしました。彼の思想は、後の社会主義運動や協同組合運動に大きな影響を与えました。
対照的に、マルサスは、貧困対策として「道徳的自制」を重視し、晩婚化や出産の抑制によって人口増加を抑制することを提唱しました。彼は、政府による貧困層への救済は、労働意欲を減退させ、人口増加を助長するだけで効果がないと主張しました。