オルテガの大衆の反逆に関連する歴史上の事件
第一次世界大戦
オルテガが「大衆の反逆」を著したのは、第一次世界大戦(1914-1918)の終結からわずか数年後のことでした。この戦争は、ヨーロッパ社会に深い傷跡を残し、それまでの価値観や規範を揺るがしました。伝統的なエリート層は没落し、大衆社会の台頭が始まりました。
大戦による大量破壊と大量死は、人々に深い精神的な衝撃を与え、既存の秩序や権威に対する不信感を増大させました。戦場で多くの若者が命を落とし、国のために尽くすという理想は色あせていきました。戦後、ヨーロッパ諸国は経済的な混乱にも見舞われ、社会不安が高まりました。
このような状況下で、オルテガは、大衆の台頭を目の当たりにし、それが社会にもたらす影響について深く考察しました。彼は、大戦がもたらした社会構造の変化、特に大衆の政治参加の拡大に注目しました。そして、従来の価値観や文化が失われつつあることに危機感を抱きました。
ロシア革命
1917年のロシア革命も、オルテガの思想に大きな影響を与えた出来事でした。この革命は、マルクス主義に基づく労働者階級の蜂起によって、帝政ロシアを崩壊させ、世界で初めての社会主義国家であるソビエト連邦を誕生させました。
ロシア革命は、大衆の持つ巨大なエネルギーと破壊力を世界に知らしめました。オルテガは、この革命を、大衆による暴力的な権力奪取の例として捉え、大衆社会における潜在的な危険性を警告しました。
彼は、ロシア革命に見られるような大衆の扇動性や全体主義的な傾向を、大衆社会が抱える本質的な問題として捉えました。そして、個人の自由や理性的な思考が抑圧される社会の到来を危惧しました。
ファシズムとナチスの台頭
1920年代から30年代にかけて、ヨーロッパではファシズムとナチズムが台頭しました。第一次世界大戦後の経済危機や社会不安を背景に、大衆の不満や不安を巧みに利用したこれらの全体主義運動は、急速に支持を拡大していきました。
オルテガは、ファシズムとナチズムを、大衆の反逆の最も極端な形態と見なしました。彼は、これらの運動が、大衆の持つ原始的な衝動や感情に訴えかけることで、人々を扇動し、理性や個性を抑圧する全体主義体制を築き上げたと分析しました。
彼の見るところ、ファシズムとナチズムは、大衆社会における指導者と大衆の関係を象徴するものでした。カリスマ的な指導者は、大衆の欲求を巧みに操作し、自分たちの権力基盤を固めていく。そして、大衆は、指導者への盲目的な服従と引き換えに、一体感や安心感を得ようとする。オルテガは、このような関係性が、民主主義や個人の自由を脅かす危険性を孕んでいると警告しました。
大衆文化の普及
20世紀初頭は、ラジオや映画などの新しいメディアが登場し、大衆文化が急速に普及した時代でもありました。これらのメディアは、大衆に対して、これまで以上に大量の情報や娯楽を提供することができるようになりました。
オルテガは、大衆文化の普及によって、従来の文化的価値観や伝統が失われつつあることを危惧しました。彼は、大衆文化を、質の低い、受動的な娯楽として批判し、それが人々の知性や感受性を低下させると主張しました。
オルテガは、大衆文化が、没個性と画一性を促進し、人々の批判的思考能力を奪うことを恐れていました。彼は、大衆文化によって、人々が受動的な消費者になり、自分たちの頭で考えることをやめてしまうのではないかと危惧していました。