## エーコのフーコーの振り子は人間
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登場人物たちの狂気
ウンベルト・エーコの小説「フーコーの振り子」は、登場人物たちが歴史や神秘主義、陰謀論に深くのめり込んでいく様子を描いています。特に、出版社で働く主人公カゾボンと彼の同僚であるベリンガーリ、ディオタッレーヴィの3人は、自分たちが作り上げた架空の秘密結社「テンプラー騎士団」の陰謀に翻弄されていきます。
カゾボンは当初、テンプラー騎士団に関する原稿を編集する過程で、その壮大な物語性に魅了されます。しかし、次第にフィクションと現実の境界線が曖昧になり、彼は自分が本物の陰謀に巻き込まれていると信じ込むようになります。
ベリンガーリは、膨大な知識とコンピューターを駆使して、歴史上のあらゆる事象をテンプラー騎士団に結びつけることに執念を燃やします。彼は、一見無関係に見える出来事の裏に隠されたパターンを見出すことで、自らの妄想を正当化しようとします。
ディオタッレーヴィは、オカルトや神秘主義に傾倒し、テンプラー騎士団を神秘的な力を持つ存在として崇拝します。彼は、カバラや錬金術といった古代の知識を探求することで、世界の真実に近づこうとします。
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知識と狂気の境界線
小説は、知識と狂気の境界線がいかに曖昧であるかを問いかけます。カゾボンたちは、膨大な知識を持っているにもかかわらず、その知識によって自分たちの妄想を深めていきます。彼らは、自分たちが「真実」を見つけたと思い込んでいますが、実際には自分たちが作り上げたフィクションの世界に閉じ込められているのです。
エーコは、情報過多の現代社会において、人間は容易に情報に操作され、自分にとって都合の良い情報だけを選び取ることで、独自の現実を作り上げてしまう危険性を示唆しています。