## エーコの「ボードリーノ」の秘密
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嘘と真実の境界
ウンベルト・エーコの小説「ボードリーノ」は、12世紀のイタリアを舞台に、主人公ボードリーノとビザンツ皇帝の姪テオドラとの物語が、虚構と現実が入り混じった形で展開されます。ボードリーノは、生まれつき嘘つきで、物語を創作することに長けています。彼は、十字軍や聖杯伝説、プレスター・ジョンなど、当時の歴史的な出来事や伝説を巧みに織り交ぜながら、読者を不思議な世界へと誘います。
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歴史的事実とフィクションの融合
作中には、実在した歴史上の人物であるフリードリヒ1世や、サラーフッディーン(サラディン)が登場し、ボードリーノと関わりを持ちます。しかし、ボードリーノが語る物語は、史実とは異なる部分が多く、どこまでが真実でどこからが嘘なのか、読者は常に判断を迫られます。 例えば、ボードリーノは、十字軍の遠征中にフリードリヒ1世と出会い、彼の秘書として仕えたと語ります。しかし、実際には、フリードリヒ1世は十字軍遠征中に溺死しており、ボードリーノが彼と出会うことは不可能です。
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語り手の信頼性
ボードリーノは、物語の中で、自分の嘘によって歴史がどのように作られていくのかを、読者に見せつけます。彼は、自分の創作した物語が、後に歴史書に記録され、人々の間で真実として受け入れられていく様子を、皮肉を込めて語ります。 このように、「ボードリーノ」は、歴史の真実とは何か、そして、私たちはどのようにして過去を認識するのかという、根源的な問いを読者に投げかけています。