エンゲルスの空想から科学へが扱う社会問題
エンゲルスの時代背景
フリードリヒ・エンゲルスが「空想から科学へ」を執筆した19世紀後半は、産業革命の進展に伴い資本主義が本格的に発展した時代でした。工場制機械工業の普及は、大量生産を可能にし、都市部への人口集中、労働者階級の形成といった社会構造の変化をもたらしました。
資本主義の矛盾と社会問題
エンゲルスは、資本主義の進展が、経済的な豊かさをもたらす一方で、深刻な社会問題を引き起こしていると批判しました。特に、資本家階級と労働者階級の対立、貧富の格差の拡大、労働者の劣悪な労働環境といった問題を指摘しました。
資本主義の自由競争は、一部の資本家に富を集中させる一方で、労働者は低賃金で長時間労働を強いられました。その結果、スラム街の形成、貧困、失業、犯罪の増加といった社会不安が増大しました。エンゲルスは、こうした社会問題の根本原因は、資本主義の生産様式そのものにあると主張しました。
空想的社会主義への批判
エンゲルスは、当時の社会主義思想を「空想的社会主義」と「科学的社会主義」に分類しました。そして、サン・シモン、フーリエ、オーウェンといった空想的社会主義者たちの思想を批判しました。
エンゲルスは、彼らの思想は、理想的な社会のあり方を描いているものの、現実の社会変革の道筋を示す具体的な方法論に欠けていると指摘しました。また、資本主義社会の構造的な問題を分析し、その矛盾を克服するための科学的な方法を提示していないと批判しました。
唯物史観と科学的社会主義
エンゲルスは、マルクスと共に、「唯物史観」に基づいた「科学的社会主義」を提唱しました。唯物史観とは、人間の社会の歴史は、物質的な生産力と生産関係の相互作用によって発展するという考え方です。
エンゲルスは、資本主義社会における生産力と生産関係の矛盾が、階級闘争を生み出し、最終的に資本主義を崩壊させると主張しました。そして、労働者階級によるプロレタリア革命を通じて、私的所有が廃止され、生産手段が社会化された共産主義社会が実現すると予測しました。
「空想から科学へ」の中でエンゲルスは、唯物史観に基づいた社会主義の必然性を論じ、資本主義社会の矛盾と社会問題を克服するための具体的な方法として、労働者階級による革命と共産主義社会の実現を提示したのです。