## エリオットのシルク川の岸辺で
T・S・エリオットの詩「荒地」の第5節は、「
シルクハットの男の影が、フィニシャン・ディドの墓の上を通り過ぎた
燃え尽きた街を背景に」という一節で始まります。この冒頭部分は、詩全体を通じて繰り返し登場する「都市」と「歴史」という二つの重要なモチーフを提示しています。
「シルクハットの男」は、近代資本主義社会における匿名的で疎外された個人を象徴していると考えられます。彼は過去の栄光や悲劇とは無縁の存在であり、ただ無関心に「燃え尽きた街」を通り過ぎていくだけです。一方、「フィニシャン・ディドの墓」は、古代ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』に登場するカルタゴの女王ディードの悲劇を想起させます。ディードはアエネーアースに恋をするも裏切られ、自ら命を絶ちます。
この対比を通して、エリオットは、現代社会における精神的な荒廃と、過去の歴史や文化との断絶を描いていると言えます。近代人は、過去の偉大な文明や悲劇から何も学ぶことなく、ただ虚無的な日常を生きているというわけです。