エラスムスの痴愚神礼讃のテクスト
エラスムスの生涯と作品概要
デジデリウス・エラスムス(1466年頃 – 1536年)は、ルネサンス期を代表するオランダの人文学者であり、カトリック教会の司祭でした。彼は古典文学の研究と普及に尽力し、聖書を原典であるギリシャ語やヘブライ語から翻訳するなど、宗教改革にも大きな影響を与えました。
痴愚神礼讃の執筆背景
「痴愚神礼讃」(Moriae Encomium)は、エラスムスが1509年、イギリスからイタリアへの旅行中にわずか1週間で書き上げた風刺文学の傑作です。親友であるトーマス・モアに捧げられたこの作品は、当時の社会や宗教における様々な愚行や矛盾を、擬人化された「痴愚の女神」モーリアの口を通して痛烈に批判しています。
作品の内容と構成
「痴愚神礼讃」は、大きく分けて以下の3つの部分から構成されています。
1. **痴愚の女神による自己紹介と称賛**: モーリアは自らをあらゆる快楽と幸福の源泉であると宣言し、人間社会における自身の功績を誇らしげに語ります。
2. **様々な階層における愚行の暴露**: モーリアは学者、聖職者、貴族、商人、政治家など、あらゆる階層の人々の愚行をユーモラスかつ辛辣に風刺していきます。
3. **キリスト教信仰への言及と皮肉**: モーリアはキリスト教の教えについても触れ、一見敬虔に見える信者たちの偽善や愚行を指摘します。
作品の特徴
「痴愚神礼讃」は、以下の特徴を持つ作品です。
* **風刺とユーモア**: エラスムスは、辛辣な風刺と巧みなユーモアを用いることで、読者を笑わせながらも、当時の社会の矛盾や問題点について深く考えさせます。
* **擬人化**: 痴愚の女神モーリアを語り手とすることで、客観的な立場から社会を批評すると同時に、読者に親しみやすさを感じさせています。
* **ラテン語**: 当時としては珍しく、ラテン語で書かれた作品です。これは、エラスムスが広く知識層に作品を読んでもらいたいと考えていたためと考えられています。
* **多様な表現**: 詩の引用、歴史上の逸話、聖書の解釈などを織り交ぜることで、多様な読者層の興味を引くことに成功しています。
作品の影響
「痴愚神礼讃」は、出版当時から大きな反響を呼び、多くの言語に翻訳され、広く読まれました。その風刺精神は、後の時代の作家たちにも影響を与え、社会風刺文学の傑作として、現代でも高く評価されています。