## ウルフのダロウェイ夫人の翻訳
翻訳の問題点
ウルフの小説、特に「ダロウェイ夫人」は、その独特な文体と複雑な構成で知られています。
意識の流れを表現した長いセンテンス、比喩や暗示を多用した詩的な表現、登場人物の内的世界を描き出す繊細な筆致など、原著の文学的価値を損なうことなく日本語で再現することは容易ではありません。
具体的な問題点
1. **長いセンテンスの処理:** ウルフの特徴である、コンマやセミコロンを駆使した長いセンテンスは、日本語にそのまま置き換えることが困難です。日本語として自然な文章にするためには、句読点を打ち直し、複数の文に分割する必要がありますが、その際、原文の持つリズムやニュアンスを損なわないようにすることが重要となります。
2. **比喩表現の翻訳:** ウルフの作品には、比喩や隠喩が多く用いられていますが、英語と日本語では文化的な背景や言語の構造が異なるため、直訳では意味が通じなかったり、不自然な表現になることがあります。原文の持つイメージを損なうことなく、日本語の読者にも理解しやすい自然な表現に置き換える必要があります。
3. **語りの視点の明確化:** 「ダロウェイ夫人」では、クラリッサやピーター、セプティマスといった登場人物たちの視点が次々と切り替わりながら物語が進行していきます。日本語訳においても、それぞれの登場人物の視点や心理状態を明確に表現し、読者が混乱なく物語世界に入り込めるようにする必要があります。
翻訳の試み
これらの問題点を克服するために、様々な工夫が凝らされてきました。例えば、長いセンテンスを複数の文に分割する際には、接続詞や指示語を適切に用いることで、原文の流れを維持しようと試みられています。また、比喩表現についても、原文のイメージを忠実に再現するために、既存の日本語表現だけでなく、新たに言葉を作り出すなどの工夫がされています。
語りの視点の明確化に関しても、段落構成や人称代名詞の使い分けなどを工夫することで、原文の複雑な構成を日本語で表現しようと試みられています。