## ウルフのダロウェイ夫人から学ぶ時代性
第一次世界大戦後の社会
「ダロウェイ夫人」は、第一次世界大戦後の1920年代のロンドンを舞台に、クラリッサ・ダロウェイ夫人という上流階級の女性の一日を描きながら、戦争がもたらした傷跡や社会の変化を浮き彫りにしています。
大戦は人々の価値観や人生観に大きな影響を与え、かつての確固たる社会秩序や道徳観は崩壊し始めました。作中では、戦争で心に深い傷を負ったセプティマスや、古い価値観にしがみつく老婦人など、さまざまな人物が登場します。彼らは皆、戦争によって変容した世界の中で、それぞれの苦悩や葛藤を抱えています。
女性の社会進出と内面
当時のイギリスでは、女性の社会進出が進み、参政権が認められるなど、新たな時代を迎えていました。しかし、伝統的な価値観も根強く残り、女性たちは依然として社会的な制約や偏見に直面していました。
主人公のクラリッサは、裕福な政治家の妻として、華やかな社交界で何不自由ない生活を送っていますが、心の奥底には、抑圧された自我や満たされない思いを抱えています。彼女は、若い頃に恋心を抱いていた女性や、自由奔放に生きる女性の姿に、自分自身の可能性や失われた自由を重ね合わせます。
階級社会と格差
「ダロウェイ夫人」は、当時のイギリス社会に根強く残る階級制度や格差も描き出しています。上流階級の人々は、豪華な邸宅でパーティーを開き、優雅な生活を送っていますが、その影には、貧困や病気、社会から疎外された人々の存在があります。
作中では、戦争で精神を病んだセプティマスと、彼を献身的に支える妻ルシアの苦悩を通して、社会の底辺で生きる人々の過酷な現実が浮き彫りになります。セプティマスは、戦争のトラウマから逃れることができず、最終的には自ら命を絶ってしまいます。彼の死は、社会の無理解と、戦争がもたらした深い傷跡を象徴しています。