## ウィルソンの社会生物学の入力と出力
### 入力
ウィルソンが1975年に出版した著書 “Sociobiology: The New Synthesis” (社会生物学: 新総合) は、動物の社会行動を進化生物学の視点から包括的に分析した画期的な著作です。 この書籍を執筆するにあたり、ウィルソンは多岐にわたる分野の既存の研究を「入力」として取り込みました。 主な入力源は以下の通りです。
* **動物行動学:** コンラート・ローレンツやニコ・ティンバーゲンを先駆者とする動物行動学は、動物の行動を本能や遺伝の観点から分析しました。ウィルソンは、動物行動学の知見を基盤とし、特に本能的な行動パターンや信号、コミュニケーション方法などを分析に取り入れました。
* **集団遺伝学:** 集団遺伝学は、生物集団における遺伝子の頻度の変化を数学的にモデル化する学問です。ウィルソンは、集団遺伝学の理論を用いて、利他的行動や攻撃性などの社会行動が自然選択によってどのように進化し得るかを説明しようと試みました。
* **進化生物学:** チャールズ・ダーウィンの進化論は、ウィルソンの社会生物学の基盤となる概念です。自然選択、適応、遺伝といった進化生物学の基本的な概念は、社会生物学のあらゆる議論において前提となっています。
* **民族学:** 動物だけでなく、人間の社会行動もウィルソンの関心の対象でした。彼は、文化人類学や民族誌などの研究から得られた人間の社会構造、婚姻パターン、親族関係に関するデータを分析に取り入れました。
### 出力
“社会生物学: 新総合” は、出版と同時に大きな反響を呼び、その後の生物学や社会科学の研究に多大な影響を与えました。以下に、主な「出力」を挙げます。
* **社会行動の生物学的基盤への注目:** ウィルソンの著作は、動物の社会行動を遺伝子や進化の観点から説明しようと試みた点で画期的でした。この視点は、従来の動物行動学や社会科学では十分に考慮されてこなかったものであり、その後の社会行動研究に新たな方向性を示しました。
* **行動生態学の発展:** 社会生物学は、行動生態学という新たな分野の形成に大きく貢献しました。行動生態学は、動物の行動を、採餌、繁殖、生存といった生態学的側面と結びつけて分析する学問です。
* **進化心理学の誕生:** ウィルソンの社会生物学は、人間の行動や心理を進化の観点から説明しようとする進化心理学の誕生を促しました。進化心理学は、人間の心の働きや社会行動が、進化の過程で適応的に形成されたものであると捉えます。
* **論争の巻き起こし:** ウィルソンの社会生物学は、特に人間の社会行動に関する記述が、遺伝子決定論や生物学的還元主義であるとして、激しい批判を受けました。この論争は、社会生物学の学問としての意義や限界、そして科学と社会の関係について、重要な議論を巻き起こしました。