イプセンの幽霊の対極
イプセンの『幽霊』の主題
イプセンの戯曲『幽霊』は、1881年に書かれ、1882年に初演された作品で、当時の社会規範や道徳観に挑戦する内容から、発表当時大きな波紋を呼びました。
この作品は、表向きは幸せそうなブルジョワ家庭の奥底に潜む、過去からの因縁や秘密、偽善などを描き出すことで、当時の社会における個人の自由や幸福、真実に対する抑圧を告発しています。
主要なテーマとしては、
* **過去の因縁:** 主人公である未亡人アルヴィング夫人は、生前評判の良かった牧師であった夫の隠された放蕩や、その結果生まれた私生児オスヴァルドの存在に苦しめられます。過去に起きた出来事が、現在の人間関係や運命に暗い影を落とす様子が描かれます。
* **社会的な偽善:** アルヴィング夫人は、世間体や体裁を気にするあまり、夫の真実の姿を隠蔽し、息子オスヴァルドには理想化された父親像を植え付けてきました。
* **女性の抑圧:** 当時の社会において、女性は経済的にも社会的にも男性に従属した立場に置かれていました。アルヴィング夫人は、夫の意志に従い、自分の意志や感情を抑圧することで、精神的に追い詰められていきます。
これらのテーマは、当時の社会におけるタブーとされていた問題に切り込み、観客に衝撃と同時に、既存の価値観を問い直すきっかけを与えました。
『幽霊』の対極になりうる作品
『幽霊』の対極に位置する作品を考える際には、「どのような価値観を持った作品なのか」という視点が重要になります。
『幽霊』が「個人の抑圧」「社会の偽善」「過去の因縁」などを批判的に描き出した作品だとすれば、その対極には、
* 伝統や社会規範を肯定的に捉え、保守的な価値観を提示する作品
* 個人の内面よりも、社会全体の秩序や調和を重視する作品
* 明るい楽観的な世界観を提示し、未来への希望を感じさせる作品
などが考えられます。
具体的な作品を挙げるならば、以下のようなものが考えられます。
* **エドマンド・バーク『フランス革命の省察』:** フランス革命によって崩壊した伝統や秩序を憂い、急進的な社会変革ではなく、漸進的な改革の必要性を説いた保守主義の古典。
* **ジェイン・オースティン『高慢と偏見』:** 恋愛と結婚を通して、当時のイギリス社会における階級や身分、偏見などを描いた作品。社会規範を守ることの重要性を説きながらも、個人の幸福についても肯定的に描いている点が特徴。
* **ルーシー・モード・モンゴメリ『赤毛のアン』:** 自然豊かなプリンス・エドワード島を舞台に、孤児の少女アン・シャーリーの成長を描く心温まる物語。楽観的で想像力豊かなアンの姿は、読者に希望と勇気を与えてくれる。
これらの作品は、『幽霊』とは対照的に、伝統や社会規範を肯定的に捉え、秩序や調和を重視する傾向が見られます。 また、明るい楽観的な世界観を提示し、未来への希望を感じさせる作品が多いことも特徴です。
ただし、これらの作品が『幽霊』のテーマを完全に否定するものではありません。 むしろ、異なる価値観を提示することで、読者自身の価値観を問い直すきっかけを与えているとも言えるでしょう。