## イシグロの「忘れられた巨人」の秘密
###
記憶と忘却の力
「忘れられた巨人」では、霧に包まれた古代ブリテンを舞台に、老夫婦アクセルとベアトリスが旅を通じて、自分たちの過去、そして民族間の争いの歴史と向き合います。作中では、人々の記憶を奪う霧や、それを操る竜クエルなどの存在が、忘却というテーマを象徴的に描き出しています。
アクセルとベアトリスは、自分たちの関係や過去の出来事に関する記憶が曖昧なことに苦悩します。旅の途中で出会う人々もまた、過去の出来事や大切な人々についての記憶を失っており、そのことが彼らの行動や感情に大きな影響を与えている様子が描写されています。
###
歴史の隠蔽と責任の所在
作中では、サクソン人とブリトン人の間に長く続く対立の歴史が描かれています。しかし、霧の影響によって人々は過去の出来事を忘れ、憎しみの根源が曖昧になっています。一部の人々は、過去の真実を明らかにしようとする一方で、別の者たちは、忘却こそが平和をもたらすと信じ、霧の存在を肯定的に捉えています。
過去の出来事を巡る真実と隠蔽、そして記憶と忘却の狭間で揺れ動く人々の姿を通して、イシグロは、歴史の解釈と責任の所在、そして和解の可能性について、複雑な問いを投げかけています。