## アーレントの全体主義の起源のメカニズム
アーレントは、彼女の著書『全体主義の起源』の中で、20世紀に出現したナチス・ドイツやスターリン主義体制といった全体主義体制の起源とメカニズムについて、歴史的・政治的な分析を行っています。彼女は、全体主義を単なる政治体制の一形態ではなく、
**人類史における前例のない新しい形態の政治運動と支配のシステム**
と捉えています。
アーレントは、全体主義の起源を理解するために、19世紀後半から20世紀初頭にかけて起こった重要な社会的・政治的変化に注目しました。
**1. 社会的孤立と原子化**
近代化の進展に伴い、伝統的な社会構造や共同体が崩壊し、人々は社会的紐帯を失って孤立化していきました。
アーレントは、近代社会における個人主義の台頭と、それに伴う社会からの孤立が、全体主義の台頭を促す重要な要因の一つであると指摘しました。伝統的な階級社会が崩壊し、人々が共通の価値観や目標を失っていく中で、社会はバラバラになり、人々は孤独と不安に苛まれるようになりました。
**2. 大衆社会の形成**
近代社会における大衆コミュニケーションの発達や都市化の進展は、共通の関心や価値観を持つ「大衆」を生み出しました。
大衆社会は、伝統的な社会集団や階層構造に取って代わる新たな社会構造を形成しました。大衆は、共通のアイデンティティや目標を持つわけではなく、むしろ孤独で疎外された個人の集合体でした。アーレントは、この大衆社会の無定形性と不安定さが、全体主義運動に利用されやすい土壌を提供したと論じています。
**3. イデオロギーの役割**
全体主義運動は、現実を無視した単純化したイデオロギーを用いることで、大衆の不安や不満につけ込み、支持を集めました。
アーレントは、全体主義イデオロギーの特徴として、**全体説明性**、**歴史法則主義**、**敵と味方の二元論**を挙げました。全体主義イデオロギーは、複雑な現実世界を単純な論理で説明し、歴史の必然性に基づいた絶対的な真理を主張することで、人々に安心感と帰属意識を与えました。
**4. テロルのシステム**
全体主義体制は、恐怖と暴力によって社会を支配し、反対勢力を徹底的に排除しました。
アーレントは、全体主義体制の特徴として、秘密警察による監視、恣意的な逮捕と投獄、強制収容所における大量虐殺などを挙げ、テロルのシステムが、全体主義体制の維持に不可欠な要素であると論じています。テロルは、人々の自由を奪い、思考や行動を統制することで、全体主義体制への服従を強要しました。
アーレントは、これらの要素が複雑に絡み合い、相互に作用し合うことで、全体主義体制が成立すると論じました。
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