## アリストテレスの自然学の位置づけ
###
古代ギリシャにおける自然哲学
アリストテレスの自然学は、古代ギリシャにおける自然哲学の一つの到達点を示すものです。自然哲学は、自然界を神話や伝説に頼らず、理性的な思考と観察によって理解しようと試みる学問でした。ソクラテス以前の哲学者たちは、自然界の arché (ἀρχή) 、すなわち万物の根源を問うことから始め、水や火、数といった原理を提唱しました。
###
プラトンのイデア論とアリストテレス
アリストテレスの師であるプラトンは、感覚的に経験されるこの世界は真の実在であるイデア界の不完全な影に過ぎないと考えました。真の知識は、イデア界を認識することによってのみ得られるとされ、自然界の探求は二義的な意味しか持ちませんでした。
これに対し、アリストテレスは経験世界の重要性を強調し、自然界そのものを探求の対象としました。彼はプラトンのイデア論を批判し、形相と質料という独自の概念を用いて、自然界における変化と生成を説明しようとしました。
###
アリストテレス自然学の内容
アリストテレスの自然学は、自然学、天体論、生成消滅論、気象論、動物誌など、多岐にわたる著作群から構成されます。これらの著作において、彼は運動の原因、時間と空間の本質、生物の発生と構造など、様々な自然現象について論じています。
アリストテレスは、自然界は目的論的な秩序を持つと考え、全ての事物には固有の目的や機能があると主張しました。彼は、四元素説や天動説といった独自の宇宙論を展開し、地球を中心とした有限で球形の宇宙を構想しました。また、生物を無生物から複雑な構造を持つ生物へと至る階層的な体系に分類し、生物学の基礎を築きました。
###
後世への影響
アリストテレスの自然学は、古代ローマ時代から中世、そしてルネサンス期に至るまで、西洋の自然観に多大な影響を与えました。特に、中世ヨーロッパにおいては、アリストテレスの著作はスコラ哲学と呼ばれる神学体系に組み込まれ、キリスト教的世界観の解釈に大きな影響を与えました。
しかし、16世紀以降、コペルニクス、ガリレオ、ニュートンといった科学者たちの登場によって、アリストテレスの自然学は次第にその権威を失っていきます。実験と数学に基づく近代科学の台興は、アリストテレスの経験論的な自然観や目的論的な世界観とは相容れないものでした。
Amazonで詳細を見る
読書意欲が高いうちに読むと理解度が高まります。