## アリストテレスのニコマコス倫理学から学ぶ時代性
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幸福論にみる古代ギリシャの社会
アリストテレスの倫理思想の根幹をなす「幸福」は、現代の私たちがイメージするものとは少々異なります。現代において幸福は、個人の内的で主観的な感情や満足感を指すことが多いでしょう。しかし、アリストテレスは『ニコマコス倫理学』の中で、幸福を「エウダイモニア」という概念で説明しています。
エウダイモニアは、単なる感情の満足ではなく、「善く生きること」、「徳に従って活動すること」を意味します。アリストテレスは、人間にとって最高の善は幸福であり、それは魂の能力に従って理性的に活動することによって達成されると説きました。
彼の主張は、当時の古代ギリシャ社会を色濃く反映しています。ポリスと呼ばれる都市国家を形成していた古代ギリシャでは、市民としての積極的な政治参加が重視されていました。理性的な議論を通じて政治に参加し、共同体の発展に貢献することが「善き生」であり、ひいては「幸福」に繋がると考えられていたのです。
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徳倫理と現代社会の共通点と相違点
アリストテレスは、幸福を実現するために必要な条件として「徳」を重視しました。彼は徳を、「知性的徳」と「倫理的徳」の二つに分類しています。知性的徳は、理性的な思考力や判断力を磨き、物事を正しく理解する能力を指します。一方、倫理的徳は、勇気、節制、正義といった、感情や欲望をコントロールし、中庸を保つための習慣的な行動様式を指します。
現代社会においても、アリストテレスの徳倫理は通ずる部分が多くあります。グローバル化や技術革新によって複雑化する社会の中で、私たちは日々倫理的な判断を迫られています。環境問題、情報倫理、経済格差など、地球規模で課題が山積する現代において、アリストテレスの倫理思想は、私たちに重要な視点を提供してくれると言えるでしょう。
しかし、現代社会は古代ギリシャとは大きく異なり、個人主義や多様性が重視されるようになっています。アリストテレスが前提としていた共同体中心的な社会構造や価値観は、現代社会では必ずしも当てはまりません。彼の倫理思想を現代に適用するためには、時代的な背景や社会構造の違いを踏まえた上で、現代的な解釈を加えていく必要があるでしょう。